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児童学コラム

子どもたちは今日も考えている―心もちに寄り添うということー

執筆者:粂原淳子(教員ページへ
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皆さんにとって、「うれしい人」とはどんな人でしょうか。
倉橋惣三は、「子どもは心もちに生きている。その心もちを汲んでくれる人、その心もちに触れてくれる人だけが、子どもにとってありがたい人、うれしい人である」と記しています。
「心もち」という言葉には、嬉しい、悲しいなどの気持ちとともに、言葉にすることが難しいその子自身の感じ方、心情の揺れが含まれているように思います。子どもたちは、その「心もち」を頼りに、周囲の人や物、出来事との関わりを通して、考えを深めていきます。
ここでは、園で飼い始めたハリネズミの名前をめぐる子どもたちの姿を通して、その過程を見てみたいと思います。

【ハリネズミの名前を話し合う中でー皆が納得する難しさ】

園で飼うことになったハリネズミの名前を、年長組で決めることになりました。「ショコラ」と「ハリー」の2つに候補が絞られましたが、どちらも譲れず話し合いは3日目を迎えました。30人の思いを1つに決めていくのですから難しい話し合いです。「多数決」「あみだくじ」「ジャンケン」と決め方について様々な意見が出る中、「どっちが気に入りそうか、名前を呼んでみるのはどう?」という名案が出されました。「そうだね」「ハリネズミの気持ちが大事だもんね」という声が広がり、みんなで静かに見守る中、名前を呼ぶと「ハリー」でお尻がピクリ。「やっぱりハリーがいいんだ」と落ち着くところに落ち着いた様子でした。
でも「ショコラ」を強く推していたAさんは大号泣。みんなが納得する答えを見つけるって難しいですね。

【自分で名前を決められなくてかわいそう?-ハリネズミの気持ちになって】

話し合いの後、Bさんがぽつりと「ハリネズミは自分で名前を決められなくてかわいそうだね」と、つぶやきました。保育者が「ハリネズミの気持ちを考えたんだね。ところでBさんの名前は自分で決めたのかな?」と聞くと、「あっ、そうだ。お父さんとお母さんが付けてくれたんだ」と照れ笑い。「きっと、お父さんとお母さんも一生懸命考えてくれたね。Bさんは、自分の名前が好き?」と聞くと、「うん、すっごく好きだよ!ハリーも名前、気に入るかな」と、細い鼻をクルクル動かすハリーの顔をのぞき込んでいました。

【ショコラ推しのAさんの思いはどうなったのか】

次の日。「ショコラ」に決まらず号泣していたAさんが、「見て見て」と段ボール箱の中を指さします。中を覗くと、友達のCさんが家で作ってきたハリネズミの人形が、愛くるしくこちらを見上げています。段ボール箱には「ショコラ」の文字。「Cちゃんがショコラにしようって言ってくれたの」「ハリーの友達だよ」と、AさんとCさんは、体を弾ませながら教えてくれました。Cさんは、家でハリネズミを作りながら、泣いていたAさんの気持ちを考えていたのかもしれません。Aさんが喜んでくれて嬉しかったことでしょう。

【子どもにとってうれしい人】

ハリネズミの気持ちを大切にしたい心もち、思った通りにならなくて悲しい心もち、名前を付けてくれた親の心もち、悲しんでいる友達を元気づけたい心もち…話し合いが終わっても、子どもたちは自分の中で問いをもち、考え続けていました。
子どもたちは今日も、自分や友達の心もちを考えながら生きています。
だからこそ、私たち大人は答えを急ぐのではなく、その心もちを丁寧に汲みながら、共に考える「うれしい人」でありたいと思うのです

参考文献

倉橋惣三(2008)『育ての心(上)』フレーベル館