メインコンテンツへスキップ
児童学コラム

カンボジアの子どもたち

執筆者:和田上 貴昭(教員ページへ
画像1_カンボジア.jpg

カンボジアという国をご存知でしょうか。多分、東南アジアにある国ということくらいはご存知だと思います。アンコールワット遺跡がある国ということを知っている方もいるかもしれません。私も2018年に初めて渡航するまではその程度の知識しかありませんでした。私の友人がカンボジアの孤児院の支援をしていることをきっかけに訪問したのが、カンボジアとの最初の出会いでした。私の専門は社会的養護、つまり親と暮らせない子どもたちの支援ですので、カンボジアではどのような取り組みが行われているのか知りたいというのが関心としてありました。訪問したのはアンコールワット遺跡のあるシェムリアップという街です。遺跡のおかげで観光が盛んな街でした。街には多くのトゥクトゥクが走り回っていて、タクシー代わりに安価で街中を移動することができます。タイのトゥクトゥクは3輪のバイクのような形ですが、それと異なり、バイクに客の乗車部分を繋げた素朴な作りのものでした。市場や屋台を訪れましたが、街には活気があり、人々の笑顔はとても素敵でした。アンコールワットやタプロームなどの遺跡は壮大で、とても素晴らしいものでした。

友人には孤児院と小学校、日本人の運営しているアートスクールを紹介していただき、見学させてもらいました。カンボジアは家族のつながりが強く、親が亡くなっても親族の中で育てられることが多いそうです。ですので孤児院で生活している子どもたちは、そういったつながりのない子どもや虐待を受けた子どもたちでした。そこでびっくりしたのは、子どもの数に対する職員の少なさです。訪問先の孤児院は20名の子どもたちに対して、施設長と調理係の方の2名で生活の支援をしていました。国からの援助がほとんどなく、寄付に頼らざるを得ないことが要因のようです。子どもたち同士が支え合って生活している状況でした。

小学校は2部制をとっていました。つまり、午前中に1、3、5年生が、午後に2、4、6年生が授業を受けるそうです。職員室に掲示されている地図には、子どもたちの自宅場所を示す印がついており、それぞれの貧困状況が記されていました。その小学校に通う子どもたちの多くが貧困状況にあることがわかりました。働くために学校に来なくなる子どもたちもいるそうです。2部制をとっていることについて質問すると、校舎と教員の不足によるものとのことでした。アートスクールは、日本で高校の美術の教員をされていた方が運営されているもので、無償で美術教室を開いています。小学校では授業時間が少ないために、美術を行う時間が設けられておらず、そういった子どもたちに対して絵画を体験する機会を提供していました。

孤児院には職員がほとんど配置されておらず、小学校は教員が足りず、貧困状態にある子どもが多くいるカンボジアの子どもを取り巻く状況。日本と大きく異なります。その背景にあるのは、長く続いた内戦の影響です。1970年代と80年代、カンボジアでは政治状況が不安定で、内戦が生じていました。そのような中、カンボジアのポル・ポト政権は知識人を対象に多くの自国民を虐殺しました。そのため現在においても、学校の校舎も教員も足りず、教育体制が不十分で、経済状況が隣国のタイやベトナムに比べて低い状況が続いています。

50年前の内戦の影響をいまだに引きずり、子どもたちの生活環境を悪くしている状況に対して、みなさんはどのように考えますか。私はこの状況を多くの人が知り、自分たちに何ができるかを考えてもらうこと、そして、自分たちの生活を見つめ直してもらうことが必要だと考えました。日本女子大学のカンボジア海外短期研修として、学生をカンボジアに連れて行く機会を作ったのはそのためです。これまで参加した学生たちは、カンボジアでの体験を楽しみながら、それぞれ子どもの環境について考える機会を得たようです。

グローバル化した経済状況において豊かな国があるのは、その国に世界からお金が集まるからです。お金が外に出た国は貧しくなります。豊かな国の生活は貧しい国によって成り立っていると言えます。2025年現在、最初にカンボジアを訪問した時に比べると、電気が通じた地域が広がり、道が整備され、小学校に通い続けられる子どもの数も増えているようです。でもまだまだだと感じています。世界にはいろいろな国があります。普段、見聞きする機会のない国について知ることで、思っても見なかったようなことにも関心が広がるかもしれません。