「一緒に体を動かす」が育む、他者とのつながり
ひとりで走るより、友だちと一緒に体を動かした方が楽しいと感じた経験はありませんか。体育の授業や部活動、あるいは休み時間の遊びの中で、特別な言葉を交わさなくても、同じ動きをしていると自然と気持ちが近づいたように感じることがあります。この「一緒に動くと楽しい」という感覚は、実は人間の心と体のしくみに深く関わっています。
心理学に関係した研究では、人と人が同じリズムやタイミングで体を動かすと、相手に対する親近感や好意が高まることが示されています。たとえば、Hove & Risen(2009)は、簡単なリズム運動による実験を行い、動きを同期させた相手に対して、より肯定的な感情を抱きやすくなることを明らかにしました。このような現象は「身体的同期」と呼ばれ、人が他者と関係を築く際の基盤のひとつと考えられています。
身体的同期は、子どもの日常的な遊びの中でも、ごく自然に生じています。子どもが友だちの動きをまねしたり、音楽に合わせて同じように体を揺らしたりする姿はよく見られますが、同じ動きを共有することで、「自分は友達と同じ場にいる」「一緒に楽しんでいる」という感覚を確かめているのかもしれません。言語による表現が十分でなくても、子どもは体を通して他者とつながることができます。
このような体を介した関わりは、子どもの社会性の発達にとって重要な意味を持ちます。運動というと、勝ち負けや上手・下手が注目されがちですが、児童学では運動を「他者と関係を結ぶ経験」としてもとらえます。たとえば鬼ごっこなどの運動遊びでは、相手の動きを読み取り、距離を調整しながら動くことが求められます。そこでは、他者を意識し、相手に合わせて自分の動きを変える力が自然と育まれていきます。
近年では、他者と動きを同期させる活動が、その後の自発的な援助行動を促すことが、幼児を対象とした遊び場面における研究によって報告されています(Tunçgenç & Cohen, 2018)。つまり、「一緒に動く」という経験は、楽しさを生み出すだけでなく、人と人との協調性を育てる役割を果たすとも言えます。子どもが運動を通して育んでいるのは、体の使い方だけではありません。相手の存在を感じ、共に過ごす心地よさを知ることもまた、大切な学びなのです。
子どもが友だちと体を動かし、楽しそうに笑い合う姿の中からは、その子が周囲の世界とどのように関わっているのかを見て取ることができます。運動の場面を丁寧に見つめることは、子どもの社会性の発達を理解する手がかりにもなるでしょう。
参考文献
Hove, M. J. & Risen, J. L. (2009). It’s all in the timing: Interpersonal synchrony increases affiliation. Social Cognition, 27(6).
Tunçgenç, B. & Cohen, E. (2018). Interpersonal movement synchrony facilitates pro-social behavior in children’s peer-play. Developmental Science, 21(1).
